東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)96号 判決
一 原告の主張する請求原因事実のうち、特許庁における手続の経緯、審決理由の要点、本願商標の構成および指定商品が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告の主張する審決の取消事由について検討を加える。
原告は、本件審決が本願商標から「ワンタツチ」の称呼をも生ずるとしたことをもつて、判断を誤つた違法がある旨主張するが、この主張は理由がないものといわざるをえない。
前記当事者間に争いのない事実によれば、本願商標は、上段にゴシツク体風で「ONETOUCHCHUYU」の欧文字を、下段に同じくゴシツク体風で「ワンタツチチユーユー」の片仮名文字をいずれも左横書きしてなるものであるが、本願商標を構成する文字の前半部に当る「ONETOUCH」および「ワンタツチ」の文字が、英語で「一接触」「一動作」「一作動」などの意味を有する語であることは当裁判所において顕著なところであり、我が国における英語普及の程度からみて、「ワンタツチ」の語は英語の「ONETOUCH」に由来する日本語であり、「一接触」「一動作」「一作動」などの意味を有する語であることを一般世人においても容易に理解するものと認めるのが相当である。そして、この「ONETOUCH」および「ワンタツチ」の語は、本願商標の指定商品たる酒類において識別標識としての機能を欠くと認めるに足りる証拠はない。
ところで、原告は、本願商標は「ワンタツチで飲める忠勇の酒」「簡単に飲める忠勇酒」を意味し、その観念を生ずるから、これを一連に称呼すべきものである旨主張する。なるほど、本願商標を構成する文字のうち後半部に当る「CHUYU」および「チユーユー」の文字が原告会社の商号の一部たる忠勇を意味するものであり、原告の本願商標出願に当つての意図が前記原告主張のとおりであろうことは推察できないわけではない。しかし、本願商標のうち、「ONETOUCH」および「ワンタツチ」の部分が独立した意味を有することは、前記認定のとおりであり、商標の称呼は商標を採用し使用する者の意図どおりに生ずるとは限らないから、本願商標から、原告の主張するような一体不可分の称呼のみが生じると認めることはできない。また、本願商標が原告の登録商標たる「忠勇」「CHUYU」に対する連合商標として出願されたものであるからといつて、「ONETOUCH」および「ワンタツチ」の部分を独立して称呼することがありえないものとはいえない。原告は、本願商標は「CHUYU」および「チユーユー」を商標の主体とするものであり、一般に、清酒取引の実際においては商品たる清酒の銘柄を指定して取引するものである旨主張する。しかし、本願商標のうち「ONETOUCH」および「ワンタツチ」の部分が自他商品を識別する機能を欠くものと認め難いことは前述したとおりであるから、「CHUYU」および「チユーユー」の部分のみが本願商標の主体であるということはできない。そして、原告の主張するような取引の慣行がある事実はこれを認めるに足りる証拠はない。のみならず、成立に争いのない甲第三七号証、同甲第四一号証、同甲第四七号証、同甲第五〇号証から第五四号証まで、同甲第五五号証の二によれば、むしろ、原告は、新聞、週刊誌などにおける清酒忠勇の広告において本願商標のうちの「ワンタツチ」の部分をことさらに摘示して宣伝文句中に組入れ、この部分により原告の商品であることの識別機能を果そうと意図している事実を認めることができる。
また、原告は、本願商標は一連に称呼した場合でも決して冗長ではない旨主張し、他に出願公告された商標の例を挙示する。しかしながら、他に冗長な商標があるからといつて、本願商標が比較的冗長なものでないということはできないし、その長さの点からみて一連にのみ称呼しなければならないとはいえない。
以上の点からすれば、本願商標からは「ワンタツチチユーユー」という一連の称呼のみが生ずるとはいえないし、他にこのような一連の称呼のみを生ずるとする特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
そして、一般の取引者としては簡易迅速を旨とする商取引に当つては、その商標の構成上読み易い部分から自然に生ずる称呼をもつて自己の欲する商品を指定し、取引する場合が少くないと考えられる。したがつて、本願商標からは、「ワンタツチ」の称呼をも生ずると解するのが相当である。
三 以上のとおり、本件審決には原告の主張するような違法はなく、その取消を求める原告の本訴請求は、失当である。